BKシードレス　　ビーケーシードレス

九州大学農学部附属農場 果樹研究室で生まれた、種なしになるブドウ品種。
シードレスは、　Seed　＝　種　　　less　＝　より少ない　
そもそも、種ができない（できにくい）というブドウです。
2011年登録。

【　種なしブドウとGA　】

通常は、ジベレリン処理をすることで、ブドウを種なしにすることが出来ます。
昭和33年、山梨県果樹試験場の岸光夫氏が、「デラウエア」のぶどう粒を肥大させるため使ったところ、偶然種なしができる事を発見したのが最初とされています。

その後一気に、この手法は広まり、「種がない」という食べやすさが市場に歓迎されます。

ジベレリンは、植物ホルモンの一種で、生理活性物質。
房を小さいうちに浸すことで、受粉させずに実を肥大化させることができます。
品種によって、濃度や回数、時期が異なります。

農家さんが「ジベ処理」とか言っているのは、この作業をさしています。論文などでは略して「GA」と表記されることがあります。

重要な作業なのですが、ブドウ栽培農家にとっては、多大な手がかかる作業になっています。

では、なぜ「BKシードレス」は「種なし」ブドウにすることができたのでしょう？

【　この品種が　種なしになる理由　】

「通常の種が作られにくい三倍体品種」であるというのが、その理由です。
これでは、ちっとも判らない・・ということで、もう少しだけ掘り下げます。
一見、やっかいな話に見えますが、判りやすく整理しますので、お付き合いください。

動物の染色体は、ほとんどが２倍体です。
ヒトは2倍体で23本の染色体をもっています。

しかし、植物は自然界でも2倍体以外のものも多く、バナナは3倍体、カキ（柿）は6倍体、イチゴの現在主流になっているものは８倍体です。

本題です。
さて、ブドウの染色体は、基本数が19。

親品種である、「マスカットベーリーA」は、2倍体で19×2＝38本です。
もう一方の親品種「巨峰」は、4倍体。
19×4＝76本です。

２倍体の親と４倍体の親から生まれた、「BKシードレス」は3倍体で19×3＝57本の染色体を持ちます。

奇数倍体であることが、ここでは重要な要因。

２，５，７など、奇数倍体の植物は、減数分裂する時に異常が起き、受精がうまくいかない事から、種ができないケースが多いとされます。
「BKシードレス」は、３倍体＝不稔性なので、種無しになったという話です。

不思議な話ですね。

最初にとりあげた、バナナの話。
売っているバナナで、種が見つかった！という話は、聞きませんよね。
多く栽培されているバナナは、３倍体。種がそもそも出来ないのです。
３倍体は、色々な交配を試すうちに、たまたま出来上がったそうです。
ですので、種があるバナナは存在します。
種がないバナナは、挿し木など栄養繁殖で増やします。
つまり、「クローン」。
ただ、たまに病気で一気に全滅したりしています。
クローンならではの、弱さもあるのです。

ほかに、アマゴを人工的に３倍体にしたという例が知られています。
事例　こちら
https://manabu-biology.com/archives/%E5%80%8D%E6%95%B0%E6%80%A7%E3%83%BB%E5%80%8D%E6%95%B0%E4%BD%93.html
生殖能力はないのですが、とても巨大なアマゴに成長しています。

ある意味「異常」なのですが、安定的に再生産できた時、人間界にとっては、実に好都合なわけです。
一方で、「種がない」という事は、子孫を残す方法が限られ、ヒトの手で増殖することになります。

いろんな示唆のある話。
人間の欲望の深さが生んだとも言えます。

【　品種登録情報　】

農水省品種登録があります。抜粋転載。

作物区分 果樹
農林水産植物の種類 Vitis L.　（和名：ブドウ属）
登録品種の名称 BKシードレス　（よみ：ﾋﾞｰｹｰｼｰﾄﾞﾚｽ ）
登録年月日 2011/02/15
育成者権の存続期間 30年
品種登録者の名称及び住所　国立大学法人九州大学 （819-0395 福岡県福岡市西区元岡744）
・・・果房の形は有岐円錐、果房の大きさは大、果房の長さは長、着粒の粗密は中、・・・果粒の形は円、果粒の大きさは中、果皮の色は青黒又は紫黒、果粉の多少はやや多、果皮の厚さはやや厚、果皮と果肉の分離性は中、果肉の色は不着色、肉質は中間、甘味は高、酸味は少、渋味は無～極少、香気はフォクシー、果汁の多少は多・・・。出願品種「BKシードレス」は、対照品種「マスカット・ベーリーＡ」と比較して、香気がフォクシーであること、種子の有無が無であること等で区別性が認められる。 対照品種「巨峰」と比較して、果粒の大きさが中であること、種子の有無が無であること等で区別性が認められる。

国立大学法人 九州大学農学部附属農場 果樹研究室のHPに、開発経緯および苗木の入手等の説明がありましたので、部分転載。http://www.farm.kyushu-u.ac.jp/~kaju/bk.html

以下
‘BKシードレス’は篠栗農場内果樹園において，１９９０年に‘マスカットベーリーA’ב巨峰’の交配によって得られた実生から選抜された品種です．・・・学生への実習教育の教材としての活用に加え，２０１０年度より実用化に向けた取り組みをはじめています．
「BK」の名前は，交配親の‘マスカットベーリーA’の「ベーリー」の頭文字からBを，‘巨峰’の頭文字からKをとったことに由来しています．シードレスは種子なしという意味です．
BKシードレスの苗木は九州大学では販売しておりませんので，各種苗会社にお問い合わせ下さい．BKシードレスの苗木を取り扱っている種苗会社については，社団法人日本果樹種苗協会（http://www.kasyukyo.or.jp/）にお問い合わせ下さい．
以上

遺伝的にほとんど種子を作らないという性質の品種。
先述の、「ジベレリン処理」無しでも種無となるのは、生産者にとって大きなメリットです。
また、果粒の密着を防ぐための間引き作業も、必要ないとのこと。
生産者にとって良い事づくめですね。

なお、九大の篠栗果樹園（福岡県粕屋郡篠栗町）は移転の話があるようです。
よりよい環境で研究がすすむ事を願います。

【　食べてみた感想　】

一般的な旬よりも、BKシードレスは、長期間出荷に耐えるようです。
入手したのは、岐阜産で１２月初旬。

赤味のある果皮で、本来もう少し黒い感じなのではと思いましたが、栽培環境に左右されるのでしょう。
見た感じでは、紫がかった果皮で、巨峰のような黒さではありません。
粒の大きさも、巨峰や藤稔のようなインパクトはなくて、ごく普通のたたずまい。

皮周辺に渋味が強く残ります。
皮の厚みはそこそこに感じられます。
実ばなれは普通程度に良く、皮を残してちゅうちゅうと吸うように食べます。
フォクシー香と呼ばれる、独特の香りは、巨峰ゆずり。

甘さは十分な糖度があり、酸味も感じられ、複雑さを増します。
甘くなると、糖度20近くなるようですが、この個体は、それほどでも無いですが、良好でした。

このブドウは、全体にオトナの味という感じで、適度な渋味や酸味が、複雑な味わいになっています。
皮周辺の渋みが、コドモ向けではないかなとも思います。
種は、一切ありませんでした。

さいごに。
「BKシードレス」という名前は、コードネームのような名前。
やはり、愛称となる名前にしたほうが、何かと記憶に残って、栽培上も意欲につながるように思います。
柑橘の「紅まどんな」は、登録品種名「愛媛果試28号」。
結果として、色々な名前で流通することになってしまいました。
同じ轍を踏まないほうが良いのではないかと思うのは私だけではないと思うのですが。