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市田柿
日本を代表するドライフルーツの干し柿。
【 来歴 】
先述の「立石柿」と呼ばれるものが源流で、600年前には既に多く栽培されていました。
長野県下伊那郡高森町(旧伊那郡市田村)で生産され、「市田柿」として出荷したのが始まり。
1960年代に、長野県と下伊那農試分場が、優良系統選抜をおこなっています。
選抜された長型・円形・小粒の中から、検討の結果、長型の系統の母樹が選ばれ、苗木を繁殖したものが今につながっています。
比較的小型の柿で110gほど。平核無柿の半分ほどの重量です。brix糖度18%以上の高糖度になるのが特徴です。乾燥して仕上がったものは、brix糖度は最大65~70%にもなります。
【 あんぽ柿 と ころ柿 の違い 】
「あんぽ柿」
干しブドウ製造法を参考に、硫黄燻蒸によって菌やカビの増殖を抑えたあと、乾燥し仕上げます。燻蒸によって酸化も抑えられ、表面の色も綺麗な橙色に仕上がります。
水分率が50%になるまで、約40日間自然乾燥されます。
伊達郡五十沢(いさざわ)村(現 福島県伊達市梁川町五十沢)では、江戸時代から富士(蜂屋)柿の栽培が盛んでした。従来は普通の干し柿も作られていましたが、大正時代11年、渡米したとなり村の大枝村に住む佐藤福蔵氏が、干しブドウ製造方法を見て、柿にも応用するアイデアを実践するも失敗。鈴木清吉氏らの手によって改良され、昭和になって農民学校教員 佐藤昌一氏が体系的な製法を確立し、「五十澤アムポ柿」と名付け、製法を冊子にして配布。製法の完成をみました。昭和8年のこと。
現在では、その製造技術があちこちに伝播。「あんぽ柿」といえば、伊達だ!というわけでもありません。
「ころ柿」
「ころ」は「枯露」と書くそうです。朝夕の露で湿ったあと昼間乾燥(枯)を繰り返して、干柿ができることから来ています。乾燥する間に、ころころ転がすので「ころ柿」とも呼ばれています。
市田柿も、「ころ柿」ですが、短時間の硫黄燻蒸もおこないます。カビや菌の繁殖をおさえ、きれいに仕上げる目的で使用しています。
乾燥期間は約1か月。機械乾燥または自然乾燥。
柿をつなげて、長くなったものを吊り下げます。
「のれん」と呼ばれます。
画像 : 飯田市HPより
水分率が35%になったら柿を並べて「揉む」作業を繰り返し、表面結晶化させます。
「揉む」作業は現在、回転する電動ドラムを使用していますが、今でも手作業に拘っている事業者もいるようです。
こんな機械を使っています。
画像 : ㈱ミツワさん
株式会社ミツワ製 「柿もみ機」KHシリーズ
ドラムの中に柿を入れて、洗濯機のようにモーターでぐるぐる回る仕組み。
動画も公開されています。
https://www.youtube.com/watch?v=9A_vbqec_uk&t=1s
最終的に水分率は25~30%くらいまで乾燥して仕上げます。
あんぽ柿は50%ですから、食感がずいぶん違うわけです。
硫黄の残留については食品衛生上問題のない残留なので安心してください。
一部の市田柿には、硫黄燻蒸を行わないものも存在しますが、堅くて黒くなることから、特殊なものと考えます。
【 生産量 】
干柿品種の中でもかなり多く生産されています。
ちょっと古いですが、2004年データ 多い順に掲載。
富士(蜂屋) 2095t 福島・宮城・山梨
市田柿 1425t 長野
平種無 1062t 福島・山梨・山形
(以下略)
(品種名 生産量 主産地 の順)
561haの栽培面積(2004)があるようです。
【 商標登録情報 】
登録番号:第5002123号
登録日:平成18(2006)年 11月 10日
商標(検索用):市田柿
権利者 みなみ信州農業協同組合 / 下伊那園芸農業協同組合
長野県飯田市・下伊那郡産の干し柿
【 GI(地理的表示)登録 】
平成28年にGI登録されています。登録番号第13号。
登録名称 「市田柿(イチダガキ)」「ICHIDA GAKI」「ICHIDA KAKI」
登録生産者団体の名称 みなみ信州農業協同組合
長野県飯田市、長野県下伊那郡ならびに長野県上伊那郡のうち飯島町および中川村で栽培されている「市田柿」のみを原料とする。
以上部分転載
【 地域団体商標 について 】
こちらは、特許庁所管の、地域ブランド登録制度です。
商標登録第5002123号
名称 市田柿
権利者 みなみ信州農業協同組合 / 下伊那園芸農業協同組合
長野県飯田市・下伊那郡産の干し柿
ここではGI登録の指定地域「長野県上伊那郡のうち飯島町および中川村」は登録に入っていません。
【 その他情報 】
白い粉をふいた状態の市田柿。
白いのはブドウ糖の結晶で、果実の糖分がしみ出て、結晶化したものです。
業界では、柿霜(しそう)と呼んでいます。薄くて、均一に仕上げる繊細な技です。
白い粉がなくなり、ベタベタする時があります。柿内部の水分が多い場合や、温度の高いところで保存したときに起こります。「もどり」と呼んでいるそうです。害はありません。
暖かい場所、直射日光を嫌います。冷蔵庫か冷凍保存しましょう。
種が入っているものがまれにあります。実際に8個食べて、そのうち1つから種が数個見つかりました。
生の柿にはビタミンCがたっぷり含まれますが、干したものは滅失します。かわりに、ビタミンAがたっぷり含まれます。
「市田美人」の名で、生柿が売られています。
粉末アルコールで脱銃したものです。量的には少なく、見る機会は現状少ないです。
飯田市の「株式会社市田柿本舗ぷらう」が商標権を持っています。同社はJAみなみ信州の子会社です。
【 実際に食べてみる 】
下伊那郡高森町で製造したものをJAが選果しリパックしたものを入手。
原材料名に、酸化防止剤として「二酸化硫黄」と表記があります。
とくに強い匂いは感じられません。
食感が独特で、堅くはなく柔らかいというわけでもない、絶妙な感じです。
もっちりとした果肉の感じは、なんとも独特。
柿の甘さは、ショ糖が中心ですが、ブドウ糖・果糖も含まれます。brix糖度は最大65~70%にもなるそうですが、鋭い甘さではなく、じんわりと優しい甘さが広がります。
全体に品の良さを感じる美味しさです。
柿は、チーズととても相性が良いです。
クリームチーズをサンドして食べるのは、なかなか幸せな気分になれます。