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二十世紀梨
カテゴリ:くだもの
みずみずしさ、今となってはスッキリ感のある甘さ、繊細さは、多くの子孫たちにも引き継がれています。
ファイル名:nijisseiki-pear-20210831.jpg
二十世紀梨 サンセーキ 廿世紀 おさ二十世紀
二十世紀を、文字通り代表する品種となった「二十世紀」梨。
各地で栽培されましたが、さまざまな問題が発生し、主役を明け渡すことになります。
現在は特産化の政策が功を奏し、鳥取ほかで産地を形成しています。
【 来歴 】
1888(明治21)年。
千葉県の大橋村(現 松戸市)の、当時13歳の、松戸覚之助によって偶然発見されたものとされています。
芽を出した状態で、親戚宅のごみ捨て場に生えていたそうです。
彼は、父親が梨の栽培を始めたところを見ていたので、興味を持ったのでしょう。苗の運命は、彼を選んだのかもしれません。
その後、23歳の青年に成長したころ、初結実。
当初、覚之助は梨の名前を「新太白」と名付けたようです。
「太白」は、現在は幻状態の希少種ですが、高評価だったこの梨にあやかって、「新」をつけたのでしょう。
「二十世紀」と名付けた人は、渡瀬寅次郎(教育者・農学士・実業家)。札幌農学校の第1期生でもあります。
覚之助から苗木を借り受けて育てていた一人。
これはすごい、と思ったのでしょう。
「二十世紀を代表する品種になってほしい」という事から、名付けたそうです。
その後実際に、「長十郎」等とともに、二十世紀を代表する和梨品種として愛されることになります。
とても良いネーミングだった事も、後押ししたのでしょう。
また、発見者である松戸覚之助氏が、希望する農家に快く苗を分け与えたそうで、日本中に二十世紀梨が広まった理由でもあります。
私利私欲を求めない懐の広さが、その後の梨生産に大きく貢献したことは特筆したいです。
さて、現在。
この梨が発見された二十世紀の里 松戸市。
「二十世紀が丘」という地名(住所)で残っています。
元は千葉県が大産地。
現在の大産地は、鳥取県。
次の項目で、その略歴と、二十世紀梨のその後について述べたいと思います。
【 大産地 鳥取の歴史と 長い闘い 】
以前は、千葉県が大産地だった二十世紀梨。
まずは、鳥取県が二十世紀梨の大産地に成長したことについて、わかりやすい動画をご紹介します。
小学生以上の子供向けの 理解しやすいコンテンツです。
考える鳥取 二十世紀梨の歴史~考えるきっかけ編~ NHK for School
https://www2.nhk.or.jp/school/watch/clip/?das_id=D0005311553_00000
明治37(1904)年に北脇永治氏が千葉県から苗木を導入したのが最初とされます。
当時は米中心の農業。所得を増やすために梨に注目したわけです。
最初は見様見真似。数年後には高額で取引されたことから、地元に広めようと活動します。
ところが大ピンチ。15年後に、「黒斑病(こくはんびょう)」が広がりました。
それを助けたのが、黒斑病研究のスペシャリスト 卜蔵 梅之丞(ぼくら うめのじょう)氏の協力があって、黒斑病を克服します。
卜蔵氏は、当時農林省農事試験場で黒斑病の対策に注力しており、ボルドー液の一斉防除を2年間続けることで、成果を残しました。
導入に関わった北脇永治氏、黒斑病に奔走した、卜蔵梅之丞氏の貢献が大きかったと思われます。
何より、意気に感じて感謝を忘れず栽培に汗を流した人々が、銘産地との評価を築いたことこそ、現在につながっていると感じます。
もうひとつご紹介
日本の「農」を拓いた先人たち
ごみ溜めから生まれた「二十世紀」ナシ / 松戸覚之助の大発見
https://www.jataff.or.jp/senjin/nasi.htm
二十世紀梨は、歴史の長さだけでなく、すぐれた性質から、多くの親品種になっています。
子世代では、「新興」「愛宕」
孫世代では、「幸水」「豊水」「王秋」など
ひ孫世代では、「あきづき」「愛甘水」「南水」などなど
「二十世紀梨」がなければ、今の和梨は無かったと考えると、感慨深いものがあります。
エースパックなしっこ館(鳥取二十世紀梨記念館)の展示に、よくわかるパネルがありましたので、掲載させて頂きます。
【 太陽をあびた 「サンセーキ」 】
「サンセーキ」という名前で売られている梨があります。
「SUN(太陽)」+「世紀」で、「サンセーキ」。
つまり、袋掛けをしないで育てられた二十世紀梨です。
品種が違うわけではありません。育て方の違い。
小袋かけ~大袋かけ といった、膨大な作業を省力できます。
見た目は、青色ではなく、黄色~うす茶の外皮色。
食味は、ワイルドで濃厚。甘さの強い印象です。
細かな解説や食べた印象については、拙文を参照ください
Tikuwapop サンセーキ サン世紀 202210TX
【 「おさ二十世紀」について 】
「おさ二十世紀」は、二十世紀梨の変異。
外観や味が違うわけではありません。
では、なぜ品種登録されたのでしょう。
少々長くなりますが、お付き合いください。
農水省に品種登録されています。抜粋し転載。
農林水産植物の種類 Pyrus pyrifolia (Burm. f.) Nakai var. culta (Mak.) Nakai (和名:ニホンナシ変種)
登録品種の名称 おさ二十世紀 (よみ:オサニジッセイキ )
登録年月日 1979/11/01
育成者権の存続期間 18年
育成者権の消滅日 1991/11/02
品種登録者の名称及び住所 長昭信 (689-0600 鳥取県東伯郡泊村)
登録品種の育成をした者の氏名 長昭信
本品種が既存の「二十世紀」と明確に区別できる形質は、結実性でありその他の形質は既存の「二十世紀」と変らない。・・・本品種は人工的に他花受粉させずに、放任のままでも結実良好であり、作柄は安定し、結果数は多い。②結果の早晩 自家結実性が高いので結果期に入るのは極めて早い。(2)その他 樹姿、樹勢は「二十世紀」と変らず、生育旺盛で、花芽の着生は多い。果実の形質、熟期、病害虫抵抗性等も「二十世紀」と比較して差は見られない。
育成者は、長 昭信(おさ あきのぶ)さん。
「おさ二十世紀」の頭部分に、育成者の名前が入っています。
果実の外観や大きさ、葉や枝など、ほとんど二十世紀と同じにしか見えないようです。
大きな違いは、人工授粉を必要としない品種に変異した という点です。
違いが発現した理由について、このように解説されています。
「この特性発現の機構は明らかではないが、現地調査の結果では柱頭、花柱を含む子房側に自家結実性を高める要因が存在している。」
よくわかっていないのです。
ニホンナシは、本来来自家不和合性という性質を持っていて、同じ品種の花粉では実を成らせません。
ところがです。
この品種は、自然(昆虫等)もしくは人間の手による人工授粉の作業が必要ありません。
育てている農家にとって、作業軽減という大きなメリットが生まれます。
「おさ二十世紀」の ふしぎな交配メカニズム。
図を用いて、理解しやすくしたレポートがあります。省力化につながる、「溶液受粉」の取り組みも紹介しています。
果樹研究所ニュース 農研機構
「受粉してあげなくても大丈夫」 品種育成・病害虫研究領域 齋藤寿広氏
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/fruit_news_no32.pdf
この品種が大きな貢献を果たしている、もう一つが「交配親」としての存在です。
1991年に育成権が切れたのち、多くの品種が試験されてきました。
農水省に品種登録が確認できたものに以下があります。
数字は登録年。
「おさゴールド」 1997 変異種
「秋栄(あきばえ) 1997 「おさ二十世紀」×「幸水」
「瑞秋(ずいしゅう)」 2000 自殖実生
「真寿(しんじゅ)」 2000 「おさ二十世紀」×「新水」
「なし中間母本農1号」 2008 自殖実生
「きらり」 2007 「おさ二十世紀」×「にっこり」
「なつひめ」 2007 「筑水」×「おさ二十世紀」
「新甘泉(しんかんせん)」 2008 「筑水」×「おさ二十世紀」
「涼月(りょうげつ)」 2008 「おさ二十世紀」×「鳥幸」
「えみり」 2008 「八里」×「おさ二十世紀」
「夏そよか」 2008 「おさ二十世紀」×「秀玉」
「夏さやか」 2008 「八雲」×「おさ二十世紀」
短期間で、実に多くの品種登録がなされています。
「新甘泉」は、鳥取を代表する注目品種に急成長しています。
拙文「新甘泉」解説を参照ください。
https://tikuwapop.com/sozaiDetail.php?num=1558&words=%E6%96%B0%E7%94%98%E6%B3%89
なお、「自殖実生」とは、「他殖」つまり他の梨品種との交雑でなく、同じ「おさ二十世紀」同士の交雑種です。
通常、自殖は「近親交配」による劣性遺伝子の発現を憂慮して、避けられることが多いのですが、植物界の1割ちょっとは、自殖 によるものだそうです。
【 食べた印象 】
何個食べたか、もはや判らない(笑)のですが、その度ごとに感じる印象。
・みずみずしい
シャキッとした果肉で、果汁もたっぷり。
果肉のシャリシャリ感とともに、一体感を感じる瑞々しさ。
さわやかな甘味。
堅くはなく、食べやすい。
・果皮色が 変わる
初期のころは、青みのある果皮色。
後半になると、薄黄色に変化してきます。
酸味は少なくなり、甘味を増します。
過熟すると、甘味は少なくなりますので注意。
登場した時点では、感じた事のない美味しさに一様に驚いたことでしょう。
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