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科 : バラ科 Rosaceae
亜科 : バラ亜科 Rosoideae
属 : オランダイチゴ属 Fragaria
【 いちごの原産地と歴史 】
いちごは、紀元前には野生化したものが採集され、古代ローマ時代には既に栽培されていたとされます。
18世紀に、オランダで北米原産いちごと、南米チリ産いちごの交配されたものが、現在世界中で食べられているいちごの元になっています。
オランダイチゴ属 Fragariaには、約20種のものが含まれます。
いちごの染色体数はn=7ですが、原種に近い2倍体から交雑によるとされる8倍体まで存在します。
現在主流となっている生食いちごは、8倍体。
1700年代にフランスで偶然交雑し出来たとされます。
現在ある品種の多くは、8倍体同士の交雑によるものですが、人為的交雑による8倍体の育成も実証されています。
基本ゲノムとして、F.vescaが含まれ、全体として基本ゲノム間で部分同質性をもつ「異質八倍体」と考えられてきましたが、いまも不明な点が多いとされます。
なお、2011年には農研機構による世界初の10倍体のいちご「桃薫」も育成されています。
【 日本のいちごと、特殊性 】
古くは『本草和名』(918年頃)に「以知古」の記述があります。野いちごのようなものだったのでしょう。
日本では、生食用いちごの生産・消費に特化した市場特性をもっています。
江戸末期、長崎に入ってきたのですが広まらず、明治になって、農学者 福羽逸人(ふくばはやと)(1856-1921)が育成。
新宿御苑内に作られた、「内藤新宿試験場」で試験栽培されたいちごが、陛下に献上されています。
福羽氏は、日本いちご界の父と呼んで良いでしょう。
現在は内藤家献上のこの地に、そのまま新宿御苑として開放されています。当時のガラス温室は残され2012年改修して現在も活躍しています。実は、この施設、先進的な取り組みが多く、多数の歴史的品種を今に残す、貴重な施設でした。
この施設から、日本初となるオリジナルである、国産第一号のいちご、「福羽苺」が生まれます。
宮内庁の許可を得た昭和13年以降、この「福羽苺」があちこちに広まります。改良の元になったのは、フランスののヴィルモラン商会から取り寄せた、「ゼネラル・シャンジー」という品種の苺の種子とされています。
とても優秀な性質をもっており、現在流通している「女峰」「とちおとめ」「とよのか」や「あまおう」のルーツとなる品種です。
「福羽苺」を語らずに、日本の現在の品種を語ることはできません。
【 現在主流となるいちご 】
現在では、日本の生食用いちごの開発および栽培技術は、すでに世界のトップレベルにあります。
生で食べることに重点をおいたいちごは、糖度や大きさ、味わいだけでなく、断面の美しさや形状に至るまで多様な進化を遂げていて、農水の品種登録だけで300種ほどにもなります。
これほど多い品種を持つ国はないでしょう。
近年は、海外輸出を見据えた、輸送性の良い品種や特殊なコンテナによる鮮度保持など、多くの技術に支えられ、輸出量も増えています。
いちごの品種は5年~10年単位で産地の取り組みが大きく変わっています。かなり早いサイクルで切り替わります。
理由は、各地の特産化取り組みによる主要品種の変更による競争力の強化です。
【 国産四季成いちごの有望性 】
促成の冬春どりの一季成りイチゴが国内では主力ですが、少しづつ国産四季成イチゴが増えています。
背景には、一季成の春の相場崩れ、6~11月に向けてのケーキなど製菓加工用需要を輸入に依存していることが挙げられます。
業務用イチゴは、実際には年間通じて需要があることから、有望視されています。
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センターの農政課題解決研修資料「イチゴの最新技術」研修テキストから
ちょっと古いのですが、大田市場のH22イチゴの取扱量と単価および国内・輸入がわかる表です
https://www.naro.go.jp/training/files/reformation_txt2011_c36.pdf
6月くらいから11月まで安定した輸入量があります。キロ単価もこの時期かなり上昇します。需要があるうえ、安心の国内産に切り替えれば、農家の安定収入と消費者にも喜ばれる一石二鳥のビジネスでは・・と気づきます。
農水データを隔年で収集し加工してみました。
生鮮いちごの隔年輸入国別データ。
実は、3~4千トンほどの需要があるわけで、これはかなりの量です。
しかも、量の変動があまりなく、手堅い市場性を持っていることがわかります。
主要輸入国は長らくアメリカ。西海岸でしょうか。
【 国内での四季成イチゴの取り組み 】
高単価で安定した市場性をもつ、四季成イチゴ。
この有望な四季成の栽培市場に最初に参入したのが四国徳島。1980年代のことで、案外歴史は浅いです。
のちに、夏秋どりに適した品種が開発されたことで、国内でも本格的な取り組みが始まります。
イチゴは、夏期の高温がネックとなることから、夏期に冷涼な北海道や東北、長野などの地域での生産が広まります。
イチゴの性質を考えると、理にかなっているといえます。
一季成と四季成の大きな違いは、その花芽分化する条件にあります。
一季成では、「短日低温条件」で蕾をだして、果実が収穫できるようになる性質があります。
一方、四季成では、「長日条件」つまり、昼間の時間が夏至などのように長くなる時に花をつける性質です。
四季成品種では、元々長日条件で花芽をつけるので、夏秋どり栽培に向いていたのです。
一季成品種でも、夏秋どりは可能とされますが、人工的な短日処理をおこなう必要があるので、コスト増となることから、あまり選ばれないわけです。
四季成イチゴは、地中海性気候に合った作型ですが、現在主力のイチゴのルーツ(チリと北米バージニア)の交配からできたものと関係が深いです。そういえば、日本でのイチゴ栽培も太平洋側の10県で多くの生産をカバーしています。
四季成は、東北、北海道、信州で今後生産量の増加が期待できます。
有望な夏秋イチゴ市場。国や民間をあげて、四季成イチゴの優良株育種が始まっています。
なぜなら、一般に一季成イチゴのほうが、食味が優れています。四季成の食味の改善は必要条件だったのです。
【 四季成イチゴの品種いろいろ 】
既存品種の、一季成イチゴ品種でも夏秋どりは可能ですが、手間とコストがかかります。
一方、四季成は民間や個人育種家や自治体単位の登録が多く、国(独立行政法人)の育種が待たれたわけです。
導入のハードルが低そうな農研機構や育成権の切れたものをいくつかピックアップします。
すでに市場にも出回っているものもあれば、既に希少となっているものもあるでしょう。
数字は登録年。
「なつあかり」「デコルージュ」・・・東北農研 2007
「サマーキャンディ」・・・宮城県 2008
「サマーベリー」・・・奈良県 1988
「みよし」・・・徳島県 1987
「かいサマー」・・・山梨県 2009
「エバーベリー」・・・農研機構 1991
「サマーエンジェル」・・・長野県 2010
民間育種も盛んで、今回取り上げる品種も北海道の企業の育成登録品種。
【 四季成りいちご すずあかね 】
民間育種による四季成イチゴです。
「すずあかね」と「すずあかねR」があります。
違いは、果肉色で、Rのほうは果肉断面が赤くなっています。
農水品種登録DBより 抜粋引用
すずあかね
作物区分 野菜
農林水産植物の種類 Fragaria L. (和名:イチゴ属)
登録品種の名称 すずあかね (よみ:スズアカネ )
登録年月日 2010/03/08
品種登録者の名称及び住所
ホクサン株式会社 (061-1111 北海道北広島市北の里27番地4)
草姿は中間、草勢は中、葉色は緑、葉の横断面の形状は軽く上に湾曲、頂小葉の縦横比は縦長、頂小葉の鋸歯の形は中間、葉柄の長さは中、ランナー数は少、花の大きさはやや大、花房当たりの花数はかなり少、果実の縦横比は同等、果実の大きさは大、果形は球円錐、果皮の色は橙赤、果実の光沢はやや強、そう果の落ち込みは落ち込み小、がく片の着き方は離、果径に対するがく片の大きさはやや小、果実の硬さはやや硬、果肉色は白、果心の色は白、果実の空洞は無~極小、季性は四季成りである。 出願品種「すずあかね」は、対照品種「エッチエス-138」と比較して、果形が球円錐であること、果皮の色が橙赤であること、果肉色が白であること等で区別性が認められる。 対照品種「サマールビー」と比較して、草姿が中間であること、果形が球円錐であること等で区別性が認められる。
すずあかねR
登録年月日 2018/03/19
品種登録者の名称及び住所
ホクサン株式会社 (061-1111 北海道北広島市北の里27番地4)
出願品種「すずあかねR」は、対照品種「すずあかね」と比較して、草勢がやや弱であること等で区別性が認められる。対照品種「サマーアミーゴ」と比較して、葉の粗密がやや粗であること、草勢がやや弱であること等で区別性が認められる。対照品種「ティンカーベリー」と比較して、草勢がやや弱であること、頂小葉の大きさが中であること、果実のがくの着生位置が平であること等で区別性が認められる。
【 実食した印象 】
ふっくらした形で、細長くはならない性質です。
堅さのある、しっかり目の果肉で、つぶれにくく、輸送性も良さそうです。
甘さは普通に感じられましたが、酸味が強めで、姿かたちが美しく、ケーキなど製菓にも映えそうなイチゴです。
名前に「すず」がついています。鈴なりにできますようにと願ってつけたそうです。
202208