「夏みかん」「甘夏」「紅甘夏」 何が違う?

投稿者: tikuwapop 投稿日:

「夏みかん」「甘夏」「紅甘夏」
同じものだとおもっていませんか。
これらは、いわゆる「雑柑」と呼ばれるもの。
春になると、必ず復習しなければならないポイント。
判りやすく、短くまとめました。

海からやってきた 柑橘

話は、18世紀(江戸時代)のこと。
山口県長門市の北にある青海島(おおみじま)。
西本チョウ/オチョウという女性が、青海島の海岸で果実を拾いました。
対馬海流に乗ってやってきたこの黄色い柑橘は、神様からの授かりものに見えたでしょうね。
帰って庭先に種をまいて育てたところ、成長し実をつけました。
「青海島に不思議なみかんが植わっている」と噂が広がり、近隣住民が種を持ち帰って裏庭などに植えるようになります。

これが標準和名「ナツダイダイ」。
「夏橙」「夏みかん」「夏蜜柑」「夏代々」「夏柑」と呼ばれているものです。

柑橘は、実をつけるのが冬にかけてですが、この柑橘は、酸味が強いので、酸抜けする夏に食べられることから、「夏」の「橙」と呼ばれたわけです。
科:ミカン科 Rutaceae
属:ミカン属 Citrus
種:ナツミカン C. natsudaidai
学名も「Citrus natsudaidai」ですね。
長門市青海島仙崎に、原樹が残っています。

あくまで裏庭に植えている自家消費用だった、「夏みかん」。
明治になって、山口県萩市で経済作物として栽培されるようになり、関西方面に出荷されたそうです。柑橘類が切れてくる時期と出荷が重なることから、相当量出荷されるようになったようです。
「夏代々」の名で売り出しましたが、代々=ヨヨと読め、病気をイメージさせるということから、「夏みかん」の名で売り出され、この呼称が一般的になったそうです。
日本各地で一時つくられるようになりました。

柑橘類の接木(つぎき)には、日本では「カラタチ」の木が使われます。
「唐橘(からたちばな)」ともよばれ、短く詰まって、「カラタチ」と呼んでいます。
古事記にもある、日本には古くからある柑橘。
「カラタチ」が台木に選ばれるのには理由があります。
他の柑橘類と親和性が高いこと、耐寒性がとても高いこと、耐病性などが理由です。

カワノナツダイダイ の 登場

時代は変わって、昭和10年のこと。
大分県津久見市の川野豊氏の園地で植えられていた、カラタチ接木の夏みかんの中に、減酸の早い変異種(枝がわり)を見つけます。最初に見つけたのが、カラスと子供たちだったそうです。
川野氏はこれを選抜して昭和25年に品種登録しました。
川野氏の名前をとって、「川野夏橙(カワノナツダイダイ)」と名付けられます。
「甘夏」「甘夏みかん」と呼ばれている柑橘の誕生です。
酸味がすくなく、甘味も強いため、市場受けも良いことから昭和30年ごろから、ナツダイダイは、川野夏橙に切り替えがすすんでいきました。
ナツダイダイは多くは切り替えられ、現在 萩市のほか、温暖な愛媛、和歌山、静岡に残っているようです。生産量は甘夏の5%ほどしかなくなっています。
ちなみに、夏みかんと甘夏は、外観上見分けにくいようです。

甘夏こと川野夏橙は、病害虫や寒さに強く、無農薬でも栽培しやすいことから、鹿児島、熊本、愛媛、和歌山などで大規模に栽培が広がります。
市場でも、爽やかな甘味と香りの夏みかんは、一気に人気品種になりました。
昭和を一世風靡した「柑橘王」です。
しかし、時代の流れに伴い消費動向も変化します。
昭和46年6月グレープフルーツの輸入自由化圧力で、その存在が希薄となります。
嗜好も変化し、うす皮ごと食べられ、甘さの強い種なし柑橘に人気が集まります。
甘夏の栽培面積は、1980年代は1万1千haありました。平成18年データでは1700haと、約六分の一まで減少しています。しかし、一方で、ぷりぷりした、爽やかな甘さは、いまだ根強い人気がある柑橘です。
柑橘に限らず、果実全般に言えることですが、優れた後発品種に押されて、在来種等は存在を希薄にしていくのは致し方のない面もあります。

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これで、
「ナツダイダイ=夏みかん」
「カワノナツダイダイ=甘夏」

の違いは判っていただけたと思います。
和名も覚えておくと、ストーリーが頭に入ると思いますので、歴史経緯を知っておくと記憶の助けになります。

さらなる変種 の 登場

その後、甘夏(カワノナツダイダイ)は、枝変わり品種が生まれています。

ひとつは「紅甘夏」。
熊本県天草郡有明町の吉田泰一さんの自園地で、変異種を発見。
果皮の色が紅色で、黄色ではないところから、こう呼ばれます。
性質は、甘夏に似た、果皮色違いの柑橘。


もうひとつは、「新甘夏」と呼ばれる枝変わり。
ルーツは熊本県芦北郡の山崎寅次氏が発見したものです。
つるりとした果皮で、甘夏よりも甘味のある美味しい早出し品種。
これらのものは、単に、「甘夏」として市場に出る場合もあって少々混乱します。
新甘夏は、地域によって名称(ブランド名)があります。愛媛県は「サンフルーツ」、静岡県では「ニューセブン」、和歌山県は「田の浦オレンジ」の名前で流通。
名称は「新甘夏」または「サンフルーツ」の名前が主になってきています。

生産量は少ないですが、大分の「甘夏つるみ」もカワノナツダイダイの枝変わりです。
個性的なものとして、「芽条変異」でできた「立花オレンジ」があります。和歌山県日高郡の立花政一氏の園地で発見されました。
上記2種はレアなので、見かけることは稀でしょう。
甘夏の変異は他にもあります。
柑橘大産地でなければ、甘夏の変異種は「新甘夏」「紅甘夏」を覚えておけば十分です。


カワノナツダイダイの交配種では、「スルガエレガント」があります。
コルヒチン処理をした谷川文旦と川野夏橙との交配。得られた種子からカラタチ台木に接木して選抜したものとされます。
一見すると、夏みかんの系統に見えますが、品のあるおいしい柑橘に仕上がっています。
別の系統のものと考えたほうが良さそうです。

「新甘夏」が、さらに枝変わりしたものもありますが、そこまで掘るときりがないので、ここで終了します。

お さ ら い

夏みかんと、甘夏 一旦おさらいしておきましょう。

◆ナツダイダイ(夏みかん)は、江戸に見つかった古い品種。
◆昭和になって見つかった枝変わりカワノナツダイダイ(甘夏)が人気に。
◆甘夏の変異には、紅甘夏(枝変わり)紅甘夏(枝変わり)などがある。


参照資料 京都大学 ミカンの親はどの品種?
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2017-01-13
生物個体や品種などを区別するために目印となる固有の DNA 配列(DNAマーカー)を遺伝子レベルで調べてみたところ、ナツダイダイは「キシュウ」と「?(文旦か)」の交配と推定されています。

参考にして、家系図をつくると、こうなります







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