カキ(柿)について 

投稿者: tikuwapop 投稿日:

かき カキ 柿  
Persimmon  kakiで通じる国もあります

科:カキノキ科 Ebenaceae
属:カキノキ属 Diospyros
種:カキノキ D. kaki

植物学上の植物名は「カキノキ」。カキノキの果実がカキです。
種まわりにゴマと呼ばれる黒い斑点があるものと、ないものに分類されたりします。

【 原産地と日本カキの歴史 】

東アジア原産の果樹。
中国では、純野生種が原生しているそうです。
日本も、カキの原生地だったとする説があります。
日本では、500万年以前の地層から、カキの化石がでているそうですから、かなり古くから存在したようです。

千葉の北原遺跡、山梨の江曽原遺跡(いずれも奈良~平安ごろ)から発見された種が、甘柿品種であったことから、平安の頃にはすでに甘柿が広まっていたのではと考えられています。
奈良時代には既に売買されており、渋柿からつくった干し柿が存在しています。
干柿は「お菓子」の扱いだったようです。
当時としては、とっても甘い食べ物だったのでしょうね。


鎌倉時代に入ると、明確に渋柿と甘柿が区分されるようになります。が、品種記録はありません。

カキの品種名の記録では、江戸初期の記述に、大和「御所柿」安芸「西条柿」美濃「八屋(蜂屋)釣柿」などがすでに名産とされたようです。今も残る名産。

江戸中期には200種ほどの記録があり、繁殖方法、脱渋(だつじゅう)方法、加工乾燥などの技術について記録されています。

明治45年に農事試験場が調べたところでは、特性の異なる各地のカキが、900種以上あると記録されています。多様で歴史が古いカキ。単一種としては随分多くの異なる特性・形状に分化した結果です。
日本人にとって1300年以上の栽培歴史をもつ、とても馴染み深い果物。

ちなみに、有名な俳句 「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」は、明治時代の俳人・歌人 正岡子規の句。


食べていたのは、「御所柿」だと考えられています。
正岡子規は、下戸であまり酒は飲まなかったようですが、かなりの大食漢で、果物も大好きだったようです。

なお、食べすぎには注意。タンニンが胃酸と反応して「柿胃石症」と呼ばれる結石が腸閉塞を引き起こすケースがまれにあるようです。一日1個くらいにしておきましょう。


【 国内生産量 】

令和3年のカキ出荷t数(農水省調べ)です。

和歌山・奈良の2県が頭抜けています。
生食用カキの出荷数です。
干柿のデータは、後述。かなり順位が入れ替わります。


【 甘柿 と 渋柿 および、その中間という存在 】

カキには、「甘柿」「渋柿」だけでなく、「不完全甘柿」「不完全渋柿」があります。
「甘柿」は、「完全甘柿」と呼ばれる品種群で、渋柿になりません。
反対に、「完全渋柿」は、甘柿にならず、渋柿にしかなりません。
「不完全甘柿・渋柿」は、名前のとおりで、受粉して出来る種と関係することがわかっています。
昨年まで甘かった柿が、なぜか今年は渋くなったという場合、元々不完全甘柿で、近くの受粉樹が無くなったので渋くなるケースも考えられます。

代表的な品種を図で示します。

甘柿品種は品種数も少ないので、甘柿品種だけ覚えておけば、ほかは渋柿の類になります。
不完全甘柿は、種が多いものは甘いのですが、渋いものにあたらないよう、センサで選別し出荷されます。
そのほか、丸っこい不完全甘柿の「西村早生」「禅寺丸」は、ゴマ状の斑点が入ると熟して食べ頃になります。
脱渋処理して出荷されることが多い柿です、

一方、「刀根早生」「平種無」などは、「不完全渋柿」です。
さわし(あわせ)柿でお馴染みの品種です。
炭酸ガスなどで処理し、脱渋して出荷されます。
完全渋柿の一部は、後述する「柿渋」に加工されたりします。


【 甘柿(完全甘柿) 】

甘柿の代表的な品種といえば、やはり「富有柿」「次郎柿」「御所柿」ということになります。

農研機構や県が育成した品種が後発で出ています。個人で品種登録されているものがありますが、富有柿の枝変りなど、形質の差が認められて品種になっているものです。
甘柿の家系図を掲載します。

なお、通常の柿は6倍体。福岡K1号(秋王の名前で商品化)は特殊で、9倍体です。

甘柿は元々渋柿だったとする説が有力です。突然変異で甘い柿ができるものを選別したもの。
元々健全なカキは、渋い性質の遺伝子を持っているので、6倍体の柿は、3対ある染色体の全てが変異して甘くなる遺伝子にならない限り、甘柿にはなりません。甘くなる性質は、劣勢(潜性)遺伝子なのです。

また、甘柿の種を植えても、通常は甘柿にはなりません。甘柿は、クローンの性質をいかした、接木や挿し木で増殖するのが通常です。
品種によっては、夏秋に高温期を経過しないと、完全甘柿であっても甘くならないものもあるようです。植える場合、種苗会社や販売店に確認したほうが良さそうです。

甘柿の育成には、「桃栗三年 柿八年」という言葉もあるように、長い時間がかかります。奈良県では、遺伝子選抜して甘柿候補を選び出し、接木して甘柿を選抜する取り組みをしているそうです。
甘柿を生み出すのは、なかなか骨の折れる作業なのです。


【 渋柿 】

先述のとおり、かなり分化がすすんで、各地に色々な種類が残る柿。
カキは、生態的には、本来は温暖な気候を好む性質を持っており、一般的には、耐寒性が弱いとされます。
しかし、渋柿品種は耐寒性が勝るようで、このことも、気候に合わせて品種分化した理由かもしれません。

一般には、東日本、とくに東北では渋柿品種の栽培面積のほうが広くなっています。
つまり、寒冷地ほど、渋柿栽培に向いている、ということが言えるようです。

品種について。
渋柿の平核無柿と、刀根早生は、外観が似ていることから、混同する人もいますが、刀根早生は品種登録されており、別種のものです。名前どおり早生で平核無より約2週間早出しの品種です。
平核無柿は、地域によって、「八珍」「庄内」「おけさ」と呼ばれるものと同性質です。

不完全渋柿の「富士(品種名 甲州百目)」は、古くからあって各地に広まっています。大型で立派な「つりがね型」。東北「蜂屋柿」奈良「江戸柿」山梨「甲州百目」岐阜「美濃」と呼ばれているものも、同性質です。
ちなみに、東北の「蜂屋」に似た名前の、岐阜「堂上蜂屋」は、別物です。

変わった例として、最近広まっている、樹上完熟の渋柿について少しふれておきます。
和歌山「紀ノ川柿」など、樹上でビニール掛けして固形アルコールを入れ完熟させて脱渋する方法です。
断面のタンニンが黒くビッシリ見えます。
「黒あま」の名前で出ています。商標登録されていますので、ご注意ください。
登録番号:第5877750号
商標(検索用):紀の川柿∞黒あま∞JA紀の里
権利者 氏名又は名称:紀の里農業協同組合
(紀ノ川柿 png)
品種は、刀根早生などが使われます。
差別化しやすいことから、各地で同じような手法で、ブランド化がすすんでいるようです。

干柿の項目も参照ください。


【 渋柿を甘くする方法 】

渋柿を甘くする方法には、①干す②茹でる③ガス④焼酎 といった方法があります。

渋味の原因は「カキタンニン」。
カキタンニンは、干したり加熱したりすると、水溶性にならず、渋味を感じなくなります。つまり、ヒトの舌で感じなくなるだけで、タンニンは無くなるわけではありません。

ちなみに、渋柿を甘くしたあと、「ジャムにしようかな」と、二次的に加熱したら渋くなった・・・というのは、「渋戻り」と呼ばれます。純粋甘柿でも、この現象が起こることがあるようです。

では、具体的に渋味をなくす方法を見ていきます。
なお、渋抜き期間は、柿の品種によって差があるようで、渋が抜けにくい品種の場合、作業工程が長くなります。

◆干す
原理は、乾燥することで窒息状態になって、アセトアルデヒドが出来るので、タンニンとくっついて、水に溶けにくくなるというもの。
皮むきして干すことで水分が抜け、渋味の元タンニンがくっついて大きくなるので、水に溶けにくい性質になるのではとの論もあります。
干すと、糖度もグン!と上がります。
ちなみに、甘柿を干したら、ちゃんと干柿になるのですが、糖度が上がらないので、渋柿が使われます。

◆ゆでる
ゆでる方法もあります。特産化として、鹿児島県薩摩郡さつま町の、紫尾(しび)温泉「あおし柿」が知られています。
40度前後を維持する必要があることから、どこでも大量生産出来るわけではないようです。
風呂の残り湯に入れたことがある、という話は、高齢の方の中には、記憶している人もいると思います。

◆ガスを使う
ガスを吸った実が、酸素のない、いわば「窒息状態」になって、アセトアルデヒドを生成。渋みの元であるタンニンと、アセトアルデヒドがくっつくことで、水に溶けにくい性質に変わることを利用しています。
炭酸ガスを使用します。ドライアイスで出来ます。
アルコールを使った脱渋よりも日持ちが良く、大量生産にも向いています。
風味の点では今一つ劣ることから、アルコールと併用するケースもあるようです。

◆あわせ柿/さわし柿
漢字で「醂す」を、「あわす」「さわす」と読みます。
単体で、「柿の渋を抜く」「渋を抜いた柿」を意味します。
焼酎で渋抜き方法は、家庭でもおなじみです。
原理は同じで、水溶性の渋みを不溶性にするのに、アルコールを使用するものです。
家庭レベルでは、35度の焼酎が使われます。大量に製造する現場では、38%程度のアルコール(エタノール)を柿kgあたり10cc程度噴霧し密閉。
軟化しやすく、保存期間がやや短いことから、直売所などの近い消費地の範囲で流通します。

上記のほかに、塩水につけておくという方法もあるようですが、あまり聞かない方法です。
渋柿をリンゴなどエチレンを出す果物と一緒にいれて、早く熟させる方法もあります。グジュグジュの柿がお好きな人に向いています。


【 干柿 】

令和元年の、県別干し柿出荷データと、その品種です。農水省調べ。

カキの県別出荷数量では、和歌山、奈良、福岡、岐阜が大産地でしたが、干柿については、比較的寒冷地のほうが盛んであることがわかります。

福島は「あんぽ柿」。画期的で歴史ある硫黄燻蒸技術の発祥地でもあります。大型の富士柿系が多く使われています。

あんぽ柿は、硫黄の煙で燻蒸して作る、干しぶどうの製造法を参考に、福島県伊達市で製法が確立しました。乾燥すると、硫黄は揮発しますので、残留せず安全です。

長野は「市田柿」で、南信州を代表する特産柿。大量に出荷されている干し柿。

富山の南砺市は、「三社柿」と呼ばれる渋柿。干し台でゆっくり乾燥したもの。

山形は、平核無柿のほか、特産の上山(かみのやま)の「紅柿」で白く粉をふいたものが名産になっています。

岐阜名産の堂上蜂屋が良くしられていますが、生産量は限られています。

新潟では、「平核無」、「刀根早生」を使った「八珍柿」が名産。佐土と新潟市で、さわし以外に樹上完熟も出ています。

鳥取、島根になると、西条柿になります。

干柿に関しては、渋柿栽培の適地ということもあって、寒冷地の環境に向いているといえます。
双璧をなす、「あんぽ柿」と「市田柿」についての詳細は別にまとめましたので、参照してください

こちら



【 世界のカキ栽培 】

冒頭で、カキは東アジア原産の果樹です。
実際の収穫量をみてみましょう。
国際連合食糧農業機関(FAO)が公表している、2020年データです。
渋柿を含む、「persimmons」で検索。単位はトン数です。
同時に、世界地図に落とし込んでみました。
日本も上位の生産国ですね。

中国や韓国、台湾のほか、原産地ではない中央アジアなど、意外な国が名前を連ねています。

アゼルバイジャンには、蜂屋柿や百目柿があり、日本から伝わった苗木です。ドライフルーツとしての利用が主です。水で戻して、料理素材としても使われています。

ブラジルでの柿の栽培は、日系移民が始めたと考えられていますが、実際にはそれ以前からフランスの苗木が持ち込まれたようです。1916年富有柿が、1923年次郎柿が持ち込まれます。日本の移民の間で1920年前後に栽培が始まりますが、あくまで自家栽培程度でした。柔らかい柿が好きだったブラジル人に広まるのは、ラマフォルテ種という、完熟して、ぽたぽたになるカキです。
現在は堅い食感の柿も好まれているようです。
ブラジルでのカキの歴史がくわしく書かれています。
ご参考に一読ください。
天理大学アメリカス学会ニューズレター2017 「南北アメリカに渡った Kaki」
https://www.tenri-u.ac.jp/tngai/americas/files/newsltrs/77/77.pdf

ウズベキスタンも、中央アジアの国。旧ソ連の構成国ですが、このあたりの国は、親日的な国も多いです。日本の技術や製品も多く提供された結果、栽培が広まったようです。
小型の種類のマメガキが多いようです。
同緯度の一帯は、農産物の多様な生産地。食文化も多様な地域で、果物の宝庫です。

こうやってみると、狭くて平地の少ない日本が、案外世界の中で、カキ生産はけっこう盛んなのではと言えます。

【 カキ 効果や利用 】

「柿が赤くなると、医者が青くなる」といいます。
ビタミン、β-カロテン、カリウムなどを含む食品。
現在では多様性に満ちた食生活ですが、昔の人には、貴重な天然サプリだったのでしょう。

「二日酔いに効く」とされます。二日酔いの原因は、分解できなくなった「アセトアルデヒド」です。
渋み成分の「タンニン」と結合することで、体外に排出するとされます。飲む前でも後でも良いようです。
柿とチーズは、とても相性が良いです。ワインのおつまみにも良さそうですね。

実を食べる以外に、よく知られている活用法に「柿渋」があります。
以前は各地に柿渋を作る製造業があったようですが、現在はごく少なくなっています。
渋柿を圧搾して、発行させたもので、タンニンを多量に含んだ茶色い液体です。
防腐・防虫・防水の効果があって、染料や紙工芸品、建材の塗料などに使われています。
天然素材で安心なことから、家の内装などシックハウス対策で見直されています。
変わったところでは、コロナウイルスの不活性化への活用が試みられていますが、現在は実用化段階ではないようです。
2022.11



カテゴリー: 作物 品種

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