キュウリについて
きゅうりの解説は、けっこうあります。
でも、わかりにくい。
歴史経緯、なぜ現在こうなったのか。
「きゅうり基礎編」として読んでいただくと、
きゅうりに詳しくなれます。
各地に在来種が残っていますが、高知は多いです。
できるだけ わかりやすく をテーマに書いていきたいです。
きゅうり キュウリ 胡瓜 黄瓜
Cucumber Common cucumber
科:ウリ科 Cucurbitaceae
属:キュウリ属 Cucumis
種:キュウリ C. sativus
【 キュウリの原産地 と 伝播 】
キュウリは、インドヒマラヤ山麓原産。
夏野菜のイメージがありますが、元々は暑いところで生まれたわけではないんですね。
日本に伝わるときに、アジア大陸の北と南に分かれて生態分化しています。
いわゆる、「華北系きゅうり」と、「華南系きゅうり」です。後述。
日本へは、1000年ほど前に、先に「華南系きゅうり」が伝わりました。
苦味(エグミ)から、あまり好まれる食べ物とはいえなかったようです。
江戸~明治に、「華北系きゅうり」が伝わり、その後明治になって、双方の自然交雑によって各地に様々な品種ができました。
ほかに、一部ロシア経由で入ってきた小型の「ピクルス」になるきゅうりがあります。
なぜか山形県など東北で定着しました。
ちなみに、「きゅうり」=「黄瓜」で熟すと黄色くなることが名前の由来とされます。
【 きゅうりの生理的特徴 】
キュウリは雌雄異花(単性花)で雌花に実をつけます。雄花には実がつかないわけです。
雌花ばかりになるときがありますが、雄花がなくても(つまり受精していない)、実をつけることができます。
こういうのを、「単為結果(単為結実)」といいます。
キュウリのことを「オトコイラズ」と呼ぶ人もいるようです。男性諸氏には頭痛いですね。
キュウリのように、そういう性質を獲得したものと、人工的に引き起こしたものがあります。
キュウリをたくさん成らせるには、高い率で雌花をつけるようにする必要があります。「節成り性」と呼んでいます。
節成り性は、日長(にっちょう)が大きく影響します。日長とは簡単に言うと日照時間の長さです。収穫効率を向上するには、栽培地に応じて、短日性と長日性は重要だったわけです。
※「単為結果(実)性」がないキュウリもあるそうなので、種屋さんで聞いてください。
【 「華南系きゅうり」と「華北系きゅうり」について 】
「節成り性」が、日照時間と関連があると説明しました。
原産地インド北部は元々、日照時間は長くない所。
元は、短日性で、高温を得意としません。
気候の違いが、あちこちに移植され、長い栽培の中で、土地に適応した性質をもち、両者に違い(変化)をもたらしました。つまり、環境に順化して性質を変えていったのです。
◆華南系
「華南系」品種は、茎が太い、葉が厚い、高温長日下では雌花の着生がよくないので、春季の栽培が多いです。夏場に栽培する場合は、地這い栽培が主。皮が厚く、「黒いぼ」をもっています。
華北は、乾燥地で夏以外は降雨量が少ない所で、気温も華南ほどではないので、ある程度の高温にも耐えられ、夏場のきゅうり栽培に向いています。長日下でも雌花をつけることができる性質に変わったのだろうと言われます。皮が薄くて生食向きの「白いぼ」の外観。
◆華北系
華北系の「白いぼ」品種は、みずみずしく、サラダなどの需要に向いていたことから、需要もあって市場を獲得。今では「黒いぼ」は伝統野菜などで残る状態です。
その後、改良がくわえられますが、華北は夏キュウリ、華南は春キュウリに向いていたことは記憶しておきたいです。
キュウリは、雌雄異花(単性花)だということも、重要なポイントです。交配が容易で、一回の交配で採れる種子も多いので、F1育成には実に都合が良かったのです。ですので、かなり早い時期にF1品種の育成は国、都道府県、民間育種会社で展開されました。結果として、在来種は減っていったともいえます。
背景を、すこし掘り下げていきたいと思います。
【 歴史 江戸~昭和初期にかけて 】
江戸から明治にかけ、華北系が導入されたことから、華南系との自然交雑により、両者の長所をもった品種が出てきました。
「半白系」「青節成系」「春型雑種群」「青長」「夏型雑種群」について。キュウリ研究第一人者、稲山光男氏ほかの記述をもとに再編します。記述元 昭和農業技術発展史5
江戸末期には、「砂村葉込」が選抜され、そこから、「大井節成」「馬込半白」が生まれます。
「馬込半白」からは「相模半白」が神奈川県農事試験場で生まれます。1929年のこと。半白群とよばれるものは、端正な果形で春キュウリの基本品種として定着しましたが、低温伸長性や耐病性に難があること、粘質な果肉の食味が合わず、長らく好まれたものの、昭和35年ごろから多品種に置き換わります。
江戸時代にはあった関東の早熟春キュウリから、「青節成系」は選抜されます。半白より小型で低温伸長性に優れ、埼玉県内で「落合節成」「落合節成2号」、通称「埼落キュウリ」が生まれます。
落合を元にしたものが九州ではで「久留米1号」「同2号」が選抜され、青節成の仲間は、その後も華北型と交配され、有力な育種素材となります。昭和のはじめごろのことです。
華北型の積極的な利用は明治に始まり、山間地の夏秋キュウリとして利用されはじめました。
昭和19年、四葉(スーヨー)きゅうりは、九州で選抜され平坦地の夏栽培にも適応する品種とし普及、のち、自然交雑が始まります。四葉きゅうりは、現在でも系統品種が一般に入手しやすいですね。
華北と華南の自然交雑として、毛馬(大阪)、聖護院(京都)、金沢(石川)、刈羽(新潟)、会津(福島)などが北陸、北日本など華南型品種が適応しにくい地域で栽培されるように。春キュウリに適正とされ、春型雑種群と呼ばれます。
関東では、「青長」とよばれる群と華北型との交雑品種「霜不知」が夏秋キュウリとして用いられました。
【 戦後に大きくすすんだ F1化 】
戦後になると、華南型、華北型両方の良いところを活かそうという動きが活発化し、国、都道府県、種苗会社が競うようにF1新品種を出してきたのは先述のとおりです。
特に、主枝を摘芯して側枝に着果させる「芯止群」や、「ときわ」など、「夏型雑種群」が広まるようになって、しだいに黒いぼ系は姿を消し、昭和50年以降、白いぼ品種全盛の基礎を確固たるものにしました。
きゅうり生態にくわしい稲山光男氏(元・埼玉園芸試験場)によると、1980年代あたりから、品種のルーツがよくわからなくなってきたそうです。海外品種も交配されているようです。
雌雄異花(単性花)で、単為結果(実)性のキュウリは、ルーツの性質の差はあっても、その差を埋めるための交配には実に都合のよい植物だったのです。
【 「白いぼ」と「黒いぼ」 】
量販店の店頭に並んでいるキュウリは、ほぼ全て「白いぼ」です。
写真は左の半白系は華南系。古くから栽培されてきた品種です。
上半分が緑色で下半分は、薄い黄緑色をしています。
真ん中は、華南のあとから入ってきた、華北系キュウリの代表「四葉きゅうり」です。
当然ですが、白イボです。
右端は、現在店頭で売っている、福島県産の普通のキュウリ。
白イボになっていますね。
華北系は「白いぼ」、華南系は「黒いぼ」と説明したとおりで、外観からルーツを探るための表現と考えましょう。
【 番外 接ぎ木とブルームレス 】
どんな栽培品目にも、病害虫や栽培に支障のある障害はあるものです。接木技術は、スイカ同様、大きな貢献をした技術なので紹介しておきます。
接ぎ木のメリットはたくさんあります。台木の持っている性質を付加することで、栽培上の課題を克服できます。たとえば、連作障害や病気になりにくい性質の台木をつかったり、連作障害に強くなるなど、品種の特性を維持したまま、台木の良い性質を受け継ぐことができます。
スイカに蔓割れ病の回避方法として、同科を接木する方法は既に確立していました。千葉県農業試験場で、カボチャを使った接木が昭和35年ごろから普及し始めました。そういえば、カボチャもウリ科の植物ですね。
その後、「クロダネカボチャ」の利用がはじまり、ブルーム(表面の白い粉状)を抑える台木でナント種苗の育成した「輝虎(キトラ)」は、日持ちも良いとのことから、大ヒットになり、多く使われるようになりました。そのほか、タキイでは、ブルームレス台木として、フォルテ、スターク、エイブルを提案しています。
いくら調べても、おわりがないです・・・がんばります
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