大型企業再編と関西スーパー北野佑次氏のこと

投稿者: tikuwapop 投稿日:

大きなニュース。
関西スーパーが事実上買収される?

関西スーパーは関西方面の方ならよく知られている、万代とならんで、身近なSM小売業。
関西スーパーの創業者は、北野佑次(きたの ゆうじ)さん。ちくわ自身は、面識は無く、関西の展示会場で数度お見掛けしたくらいですが、日本小売業の歴史に残る偉大な方であることは十分承知していました。
関西スーパーとしての看板は残るにせよ、唐突感が強くショックでした。

北野佑次氏のセミナー音声を持っていましたので、改めて聞き直してみました。
2009年の音声で関スパ50周年直前のインタヴューを文字起こししてみます。この収録の4年後、北野佑次氏は他界。

直売所で働くみなさんも、今ある店舗システムの大元を作った人の話。参考になる部分があると思います。

           銅像 竹中銅器様

戦争中幹部候補生として習志野の予備士官学校時代に終戦し命拾い。帰郷。拾った命で好きな事をやろうと決心。

好きだった山登りに邁進~大阪鉄道局に事務計算係として就職。
ご実家は染物屋だったが、結婚を機に市場で削り節の卸売業をはじめる。

出張した時に見た福岡小倉(現 北九州市)の「マルワ(株式会社丸和)」のオープンを見て、感動する。売掛金の回収に苦労する卸売業と違い、お金を持って買いにきてくれる。しかも並んでいる。スーパーマーケットとは何といい仕事なのかと思ったそうです。組織化されていれば、自分がダウンしても、組織は残る。

研究を重ね、「高知スーパー」に行った時には、売り場を見て、自分でも出来る気がして参入しようと決意。1959年相互産業㈱をつくり現在の本社のある伊丹で創業。

最初は好調だったが、キャッシュフローの意識が低く、資金繰りに苦労。アメリカハワイにわたって、タイムズSMを視察して、ヒントを得る。回転のよい「食べるものだけを売るんだよ」という事を教えられる。西海岸での視察でも同様の事を言われて、実践。
なるほど いい商売になるんだなと実感したそうです。
お店をたよりにして買い物に来てくれる事に応える、という事に集中したと述懐。倒産しそうな関西スーパーが盛り返して、繁盛店になりました。

当時は、まだ店舗の冷蔵冷凍陳列什器や、鮮度管理のための冷蔵庫も無かった時代。その施設設計と、業務を円滑化するための技術開発に取り組むようになった。
お惣菜とかをトレーに乗せて店頭に運ぶ「カート」方式も最初に開発した。
とくに、バックヤードとカートの大きさをマッチするための設計を、きわめて合理的にセオリー化したという点で、先駆的でした。
カートシステムや、合理的な冷蔵ケースの配置は、全国のSM店のお手本となりました。これらの、鮮度維持や省力装置は、「関西スーパー方式」と呼ばれるまでになります。

一方、商品政策では、「感動は続かないから」という理由で、高級志向は考えなかった。
非常に保守的でコンサバティブです。
チキンハートなくらいでちょうどいいと述懐しておられました。
「私どもスーパーマーケットは、毎日のおいしいおかずを提供する『おかず屋』です」とも。なんとも庶民的な方です。鮮度のよいものを、地域の人にとって必要なだけ、良い状態で届けたいという事は、繰り返し述べていました。




北野さんは、非常にロジカルに語れる人です。
と同時に、たいへんオープンマインドな方です。
苦労して辿り着き、日本の売り場に合うよう作ったシステムを、惜しみなく人に教える。決して独占することなく、広くその手法を惜しみなく伝えました。
理由を聞かれて、「そんなもん、見れば判るやないか」とおっしゃっています。

北野さんは、判っていたのだろうと思います。
知識や設備は、いずれ追いつく。
でも、実際の競争は、店舗どうしでおこなわれます。
企業間ではなく、店舗間で行われるのです。
実際の競争は、実店舗、しかも、近隣同士で行われる。
だから、自信があったのだと思います。

また、「働いている人のためになる」と、
「労働組合」を推奨した。
あの戦後成長期のごたごたした時代に、思い切った提案でした。
大阪鉄道局に就職したときの、間違った労働組合活動を
実際に見た という、経験も生きているようです。
こんなふうな労使関係にしてはならない、という理念を持ったうえで、
労働組合をつくることを推奨しました。
若い方はご存じないでしょう。労働争議の多かった時代には考えられない度量です。
きわめて、健全であるだけでなく、スケール感が突き抜けていた器の大きい方です。

さて、今年流通小売業で5本の指に入る大きな動き。
H2O(エイチツーオー)と関西スーパーの話題について。
色々書かれていますが、簡単に言ってしまうと、
関西スーパーは名をのこし、H2Oが実をとって完全子会社にした。
イズミヤ、阪急オアシス(阪食)も、看板は残しています。
関西スーパーを加えると、SMとしての売上規模は3700億。

しかし、よく言われるシナジー効果や、スケールメリットは、どれほどあるか疑問です。H2Oは百貨店から小型専門店まで持つ、コングロマリット(複合企業体)と言っていいでしょう。システムを共同開発する際には無駄な装備が増えます。いろんな意見がありますから、「高級」だの「安売り」だの、元々あったお店の路線もあちこちにブレが出てくるかもしれません。コストはお客が払うことになります。つまり、お客にとっては、迷惑なだけです。




実は、この話の伏線には、関東の雄 オーケーがTOB(敵対的買収)をしかけていたことがわかった・・・という話があります。
経営陣は悩んだでしょう。

オーケーをご存じない方も多いと思いますので(関東にしかないので)短めにご紹介したいと思います。

「オーケー株式会社」

本社は神奈川県横浜市。
オーケーの経営方針は、『高品質・Everyday Low Price』

オーケーといえば、安いというイメージかもしれませんが、
経営上成功している理由は、「無理なくローコストを実現した」ことだと思います。
ロジカルだし、経営方針もわかりやすい。できないことは捨てた。
Everyday Low Priceにするためには、「総経費率(売上に対する総経費の比率)を15%にする」。
「借入無しで年率30%成長を達成する」(現在は20%)
と、とてもシンプル。
チラシをやめ、ハイ&ロー戦略ではなく、徹底してEDLPを価格戦略にする。原則1商品1品目に絞る。他店の価格に合わせる「対抗値下げ」。食品容器を数種に絞り込む。とにかく無駄につながる考えは捨てています。
カートを使うと100円入れなくてはいけません。でも元に戻せば100円は返ってきます。カートの整理係は不要です。

「オネストカード」はとても良い取り組みです。オネスト=honest(正直)です。
こんなカードです。

オーケー株式会社 HPより

ほかにも、「6月21日から発泡酒が値下げになります。お急ぎでなければ、6月21日までお待ちください。」
がHPで紹介されています。
つまり、今買わなくていいよ と伝えているんです。買わないほうが得ですよね、という嬉しい情報は正直に伝えたほうが、ファンは増えます。確実に。それでもほしい人は買ってくださいという事ですから、納得した上で購入しています。
意外とどこも出来ていないんですよ、これ。ずいぶん昔から取り組んでいるのに、真似できない。

働く人にとっては、業界水準を超える給与体系と、働きやすさ。顧客にとっては、常に満足度ナンバーワンの企業として関東では認められています。いつ行っても、良い物が最低価格で買える。顧客の理想に近い店舗だからこそ、とても高い評価を得ているんですね。

さてさて、今年流通小売業で5本の指に入る 大事件に戻ります。
関東の雄 オーケーがTOB(敵対的買収)をした理由について、こうコメントしています。
「当社なら関西スーパーをもっと改善提案できる」という理由で、関西スーパー買収に動いたといいます。

もちろん関西初進出のための重要な布石。

ここには、単に安売り企業が全国展開する布石としてTOBを試みたという話なのかというと、そう簡単な話でもないように思うのです。

H2OのSMとしての売上スケールではどうでしょう。実は、オーケーほどの売上はない。
関西スーパーを入れても、3700億。
しかも、未来はオーケーのほうが明るい。近い未来一兆円を視野に入れているはずです。しかも無借金で。
2年おきの売上グラフです

2020年時点の店舗数は、123店舗。
驚くべきことに、一店舗あたりの年間売上平均 35億3千万。
経常利益率は、なんと5.42%。繰り返しますが「無借金経営」。

バイイングパワーの点でも、オーケーは強力です。優秀な経営管理メソッドはどの企業からも注目されています。
「当社なら関西スーパーをもっと改善提案できる」というのも納得です。

競合が出てくるたびに、
徹底抗戦をしてきた小売業。
いつから、「近所は皆仲間」になったのでしょう。関西のお店はみな同じ器の中に入ってしまうんでしょうか。

気になるのは万代さんです。

H2Oは、大阪・万代さんとも業務提携していますが、今後どうなるんでしょうか。万代さんも、関西スーパーに似て、決して派手なところはないけど、日常の買い物でしっかり顧客に熱烈支持されている企業で好感がもてます。
やはりH2Oさんよりも、オーケーさんに方向性は近いんじゃないかとちくわは思います。
万代さんは非上場企業。ですので、TOBは無いです。
今後どうなるでしょうね。
(オーケーさんも関スパ株価が高いうちに売り逃げて、次の一手を考えることでしょう)保留。

何度も思いますが、
関西スーパーは、是非、オーケーさんといっしょに
やったほうが良かったのではないか。
ちくわは、そう思います。合理性、質実剛健、基本に忠実、科学的。

その理由は、偉大な先人 関西スーパー創業者 北野裕次という人となりをお伝えする中で、この企業が持っている芯というか関西スーパーマインドが判ってもらえるのではないかと思って、冒頭に紹介をしました。
日本のスーパーマーケットと、セルフサービスがこれほど定着、発展したのは、間違いなく北野裕次氏の貢献があります。そして、やっぱり、オーケーの理念に近いものを感じるのです。正直で飾りなく真面目に取り組んでいてブレることがない。
プリンシプルの似通った企業同士がくっつくのが道理ではないかと。

なんだかんだ言っても、創業者の次世代の経営者は、親子でない場合、どこかサラリーマン的なんだろうか、と思ったりします。
北野氏がご存命だったら、いまの状況をどう思い、どう判断するでしょうか。

大きくなりすぎた企業体の意思疎通は、とても難しい。
そんなくらいなら、創業時に立ち返って、信念の経営をする。
創業から50周年を超えた企業。その創業の理念は、時間をかけて潰える(かも)。この際、良い方向に進んでくれることを願うばかりです。

原稿を書いているうちに、またまた大きな話。
四国、中国の雄 フジ と、イオンの経営統合。
2024年には事業会社フジとマックスバリュ西日本が合併、統合新会社が設立される。
フジも関西スーパー同様、業務提携という流れから、経営統合に移行。
フジは約3000億、MV西日本は約5600億。
SM企業1兆円が視野に入る?かどうかはわかりません。現状では無理でしょう。もう一段階の構想があるように思われます。イオンは常に動いています。コロナは時間を速めています。今後も再編はすすむのでしょう。

まるで日を合わせたかのような、大きな話題2連発でした。

2021/09/03新たな情報
10月29日に関西スーパーが開催する予定の臨時株主総会ではH2Oリテイリングの提案した統合計画に反対票を投じる方針も表明しました。株主総会で統合に関連する議案が否決された場合には、再度2250円でのTOBを提案する考えです。本気の姿勢です。以後何か新たなリリースがあっても、このページでは更新しないことにします。
機会があれば、別の項目でブログでお話することにします。




長文をお読みいただき、ありがとうございます。言葉が足りない部分もあるかもしれません。必要であれば加筆修正します。

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