「サツマイモ」について
さつまいも 甘藷 唐芋 琉球芋 長崎芋 あめりか芋
Sweet potato
科:ヒルガオ科 Convolvulaceae
属:サツマイモ属 Ipomoea
種:サツマイモ I. batatas
呼び名がいろいろあるのは、定着した場所で愛称のように広まった呼び名なのでしょう。
【 起源と日本への伝来 】
栽培の起源については、有力とされていたのが、西インド諸島を含む熱帯アメリカ。
長らく起源の元となる原生種探しがされていましたが、メキシコ~エクアドルにかけ自生している「イポメア・トリフィーダ」が、サツマイモの祖先だとされています。
コロンブスが大陸に到達した頃には、すでに一帯では原住民によって広く栽培されていたようです。
ヨーロッパにサツマイモを伝えたのは、コロンブスらですが、それ以前から、東西両方向に海伝いに広まっていました。ポリネシアには西欧よりもかなり早くに伝わっていたようです。
中国に到来したのは、案外遅く、コロンブス以後のことで、16世紀になってからのこと。
ヨーロッパでは、味が好まれなかったこともあってか、圧倒的にジャガイモ栽培のほうが盛んになりました。
世界への伝播ルートは3つあるとされます。
本土へは、フィリピンから鹿児島に伝わったとの説、琉球から長崎に伝わった説があります。
中国から琉球に伝わったのが、1605年とされています。現:沖縄県中頭郡嘉手納町野国出身の「野国総管(のぐに そうかん)」が中国に渡ったとき持ち帰ったものとされます。
「琉球芋」として、良く根付いたことから、多くの食糧難を救います。また、1597年に宮古島に入ったのが最初との記録もあります。
その直後1609年、慶長の役(薩摩藩の琉球侵攻)以後、サツマイモが沖縄から鹿児島に伝わり、栽培が始まります。鹿児島=薩摩の国の芋なので、広く「薩摩芋」と呼ばれるようになります。
江戸初期は、飢饉がたびたび発生しますが、その度に「救荒作物」として活躍します。
「救荒作物(きゅうこうさくもつ)」とは、一般の作物が不作のときも、比較的よい収穫を得られる作物をさします。
サツマイモといえば、御家人で儒家・蘭学者、別名「甘藷先生」の青木昆陽を思い出す人も多いでしょう。
青木が江戸にサツマイモを持ち込んだのが1734年とされています。現在の千葉幕張、千葉県九十九里町、東京都文京区の小石川植物園で栽培を始めたそうです。各地に広めて、飢饉を防いだことが評価されます。
千葉市花見川区幕張町には「昆陽神社」があり、芋神様として奉られています。
東京都新島(にいじま)村では今でも白っぽい七福芋が「あめりか芋」として栽培されているそうです。明治から今に至るまで作っているというのもすごいです。
【 世界の栽培 】
元々熱帯原産で、アジア、アフリカなどで栽培されます。
FAO(食糧農業機関)調べ2020年のデータを元に図にしてみます。
ほか、ナイジェリア、ウガンダ、インドネシア、ベトナムで栽培がさかんです。
アフリカ諸国の多さが目立っています。
元々はといえば、熱帯アメリカ原産のサツマイモ。
南北アメリカの栽培は、それほど盛んなわけではなく、実際には各国に伝播し、重要作物になったという点で、興味深いです。
日本は28番目に多く栽培されています。
【 日本国内の栽培 】
日本国内の栽培について。
経済作物としての北限は、東北の福島・宮城、新潟以南とされていました。
現在は冷涼地向けの「ユキコマチ」といった品種も発表され、栽培可能地は広がっています。
温暖であること、日照の多いことが条件。国内では、かなり広い範囲で栽培が可能です。
データのある、明治以後から令和2年までの作付面積データです。
昭和24年をピークに減少しています。
でん粉利用が、輸入依存になったことが、減少の大きな理由と考えられます。
需要減から、飼料、加工原料、基幹作物としての重要性は低くなっていますが、吸肥性が強く、他の野菜との輪作として重要な作物でもあります。
また、九州沖縄などでは、夏場の台風被害にも強く、食用の塊根は地中にあるので、災害に強い作物として重要となっています。
ジャガイモ同様、「救荒作物」として、とても優秀な食糧です。
【 サツマイモ 国内の栽培(作付面積) 】
日本国内の広範囲で栽培される、サツマイモ。
主に、青果用・加工用で産地が分かれています。
農水省の統計では、青果と加工品種が、ごちゃまぜになっていますが、一旦そのまま集計してみます。
都道府県別栽培面積データ。
鹿児島県が長年トップで、次いで、茨城・千葉・宮崎と続きます。
もっとも作付面積の大きな、鹿児島県のサツマイモ栽培の中身について、少し深堀りしてみます。
こちらも令和2年のサツマイモ品種別データ。
主産県 鹿児島県の栽培品種 令和2年
品種別に、大雑把ではありますが、加工用と青果用品種に分けてみました。実際には両方の用途として栽培されるものがありますが、おおむね、8割方は加工用サツマイモ品種の栽培に集中しています。
加工用には、大きくわけて、焼酎などアルコール用と、でん粉から出来る糖類・製菓などの食品加工用になります。
大産地の鹿児島県は、実は、加工用サツマイモの大産地だと理解できます。
コガネセンガンは、焼酎。シロユタカ、ダイチノユメ、こないしん といった品種から、焼酎も作られますが、いずれも主に加工でん粉用の品種です。
でん粉用品種は、外皮色が白く、果肉も白っぽいものが多いです。
同じくサツマイモ大産地の、茨城・千葉のデータを拾ってみます。
こちらは、青果用品種が中心です。
茨城県は、「べにはるか」の作付が4割に達していて、ホクホク系の従来品種「ベニアズマ」から転換がすすんでいます。千葉県では「べにはるか」と「ベニアズマ」の栽培面積は拮抗しています。
シルクスイートは、両県でも注目し広く栽培されています。
茨城では、「べにまさり」の作付面積が突出しています。高系14号よりも粘質で良食味・多収な青果品種。
栽培上位県の品種がどうなっているか、まとめてみました。
順不同
【 サツマイモの用途と品種 】
サツマイモは、焼き芋などでお馴染みの、青果用途を思い出しますが、実際には、加工用品種もあります。
加工にも向いていて、かつ、青果でも美味しい品種がありますので、異論があるでしょうが、ここではザックリと「青果用」「でん粉加工用」「製菓加工品等」に品種を分けてみました。
対象は国内の作付け面積 令和2年の概算。
青果用が過半で、でん粉などの加工用途も大きな市場だとわかります。
意外なことに、比較的新しい品種が多く含まれます。
2000年以降の登録では、べにはるか、シルクスイート(登録名HE306)、ちゅら恋紅(コイベニ)、ダイチノユメ、ムラサキマサリ、沖夢紫(オキユメムラサキ)、アヤムラ サキ(登録名はスペースが入ります)と、かなり新しい品種にどんどん入れ替わっています。
最も新しいものではコナイシン(2022登録)。
積極的に新しい品種栽培に転換していることになります。
上位品種も、期間を経てデータをみると、今後ずいぶん入れ替わっていく予感があります。
後発品種は、優秀なんですね。
【 サツマイモの用途 焼酎用 】
サツマイモのでん粉を糖化し、麹菌と酵母でアルコールをつくり、蒸留して製造します。
でん粉が含まれていることを活かしているので、焼酎向きのサツマイモ品種であっても、後述の食品でん粉用途となる事があり、逆もあります。
一般には米麹で作られますが、「いもいも」または「全量芋」と呼ばれる、「芋麹」で作った焼酎も少数あります。プレミアム焼酎に多いですね。
【 サツマイモの用途 食品用でん粉 】
サツマイモから取られている「デンプン」。
あまり馴染みがないのですが、用途は広いので、知っておくと何かの役に立ちそうです。
サツマイモのでん粉の特徴は、水+熱で 粘りがでて、糊状になることです。
大きな用途として、糖分を活かした、異性化糖(果糖ブドウ糖液糖)として清涼飲料や水あめなどの甘味用途です。約8割近くが、この用途。
製菓用としては、麺類やくず餅などの和菓子・葛きりなどの加工食品用途です。焼き菓子に加えると、サクサクした食感になります。
他県ではあまり馴染みがありませんが、鹿児島県では、「さつまいもでんぷん」が、小麦粉や片栗粉同様、粉状のものが袋に詰めて売られているようです。
ねっとりした感じになるようで、くず餅が簡単に作れるようです。なかなか便利そうですね。
ちなみに、サツマイモでんぷん採取の始まりは、国策として千葉県でスタートしたようです。現在は鹿児島県で行われています。
【 サツマイモの用途 むらさきいも 】
お土産でもすっかりお馴染みの、紫芋の焼き菓子はご存じですね。
ペーストや粉末にして、お菓子製造に使用しています。
沖縄県の栽培データ上の上位に来る品種は、すべて「むらさきいも」です。
沖縄県令和2年のサツマイモ品種別作付け面積です。
ちゅら恋紅 (164.0ha)
沖夢紫(おきゆめむらさき) (72.0ha)
備瀬(びせ) (20.5ha)
ちゅらまる (4.0ha)
その他 (12.5ha)
宮農36号、V4、ハワイ紅 といったものも残っているようですが、改良品種への交代もすすんでいます。
青果やでん粉加工用途だけではない、サツマイモ栽培という点で、特徴的なので、記述しておきます。
【 サツマイモの 先進性 】
比較的保守的な、ジャガイモ。
今でも、主力は明治生まれの「男爵いも」です。
世界的にみても、非常に保守的な食習慣かもしれません。
一方、サツマイモ。
現在、青果用も含め、堂々の2位にある「ベニハルカ」。
実は、発表から10年ほどで、「天下を取った」事例です。
ジャガイモに比べ、サツマイモは、市場の好みを反映しやすい野菜なのかもしれません、
ここ近年のサツマイモ品種登録をまとめてみます(2022時点)。
ひめあずま ヒメアズマ 2022/07/26
みちしずく ミチシズク 2022/03/30
ゆきこまち ユキコマチ 2021/11/24
あまはづき アマハヅキ 2021/08/05
あかねみのり アカネミノリ 2020/06/29
ほしあかね ホシアカネ 2020/06/29
オリジンルビー オリジンルビー2019/10/01
こないしん コナイシン 2019/06/11
サツマアカネ サツマアカネ 2018/11/13
ふくむらさき フクムラサキ 2018/08/14
むらさきほまれ ムラサキホマレ 2018/08/14
日付は、出願公表日
上記は、すべて農研機構による育成品種です。
サツマアカネは、薩摩酒造との合同登録。
名前に「ほし」とついている物は、干し芋むき品種ですので覚えておくと便利。
話題の「あまはづき」など、人気が出そうな品種がズラリ。
「あまはづき」は、苗も入手しづらい状況で、ここ2年ぼんやりしているうちに「完売」です。残念。
色々な意味で、サツマイモの未来は、明るく 希望に満ちている という事ができるでしょう。
デンプン用途だけではない青果用サツマイモ。
今後も注目です。
食べ比べ記事もありますので、御覧ください。
食べ比べすると、それぞれの個性がはっきり感じられます。
サツマイモを調べて行くと、ジャガイモについても知りたくなりますよね。
別項目でまとめていますので、是非ごらんください。
「じゃがいも」についてhttps://tikuwapop.com/blog/2022/05/17/poteto-hidtory-worldwide/
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